南アルプス全山縦走3/3 白峰三山と小太郎山、20年ぶりの広河原


絶景!


■8日目 塩見岳を越えて、熊の平へ

外は、びっくりするぐらい星が綺麗でした。はるか遠くでは雷が光っていました。22:30に出発、星月夜の稜線を歩きました。
眺望の良い烏帽子岳で最初の休憩をしました。月が登ってきました。ヘッデンを消して座っていると、月が出ているにもかかわらず星は光り輝き、風の音も鳥の声も虫の声も何の音もしない静かな中で、山々のシルエットがくっきりと浮かび上がっていました。遠く飯田か諏訪の街の明かりが見えます。なんて贅沢な時間でしょう。しばらくウットリしてしまいました。

月夜。暗い時間帯の写真が撮れないのが悔しい。


いい気分になって、ガレのふちに気をつけつつ三伏峠へ向かいました。小河内に水場はないので、水は600mlに減っていました。三伏峠で水を補給するか迷いましたが、塩見岳を超えた先でも補給できそうだったので、汲まずに先を急ぎました。三伏山も烏帽子と同じように素敵でした。その後は樹林帯の中の平坦な道を延々歩き、急登となって塩見小屋の辺りまで来ました。ここまで来ると、塩見岳のシルエットが大きく迫ってきて、早く登りたいという気持ちが強くなりました。あまり休憩せずに先を急ぐと、塩見小屋で出発準備をしている人たちの姿が見えました。おそらく、御来光を狙っているのでしょう。
しばらくいって声がするので振り返ると、後ろから続々と人が登ってくるのが見えました。そういえば、今日は土曜日でした。もう少し遅かったら、塩見岳への登りの岩場で渋滞になったかもしれません。岩場は大好物なので、ヒョイヒョイ登って日の出に十分間に合う時間に山頂につきました。まだ誰もきていない山頂で、束の間のひとりの時間を楽しみました。


夜明けはもうすぐ

まだ、誰もいない

もう時期日がのぼる

小河内岳が遠くに見える

富士山のそばに変な雲

髪型が変!

ご来光です

御来光です!



やがて続々と塩見小屋からの人たちが到着しました。おはようございます、と挨拶してすぐに熊の平へむけて降りました。もうここから先、静かな南アルプスではないかもしれません。

北股岳分岐から降りる道がガレていて多少悪かったものの、「キャンプ禁止」と書いてある平らなところに降りて、ここでゆっくりコーヒータイムにしました。北荒川岳まで、なかなかいい感じの景色が続きました。
熊の平まで、ハラが減ったり、眠くなったり、足の小指が痛くなったりと、ずいぶん長い道のりに感じましたが、だいたい予定通りに11:00に到着しました。この縦走中で一番長い距離を歩いた日になりましたが、疲労感は兎岳を登った時の方が強かったです。

北ノ俣岳?

熊の平へ続く路。仙丈と甲斐駒が見える

塩見岳を振り返る

北荒川岳

塩見岳

熊の平までは誰にも会わなかった


小屋の近くにテントを張りました。周辺を散策している若い男性2人組がいて、楽しそうに歌ってました。小屋泊まりのようです。彼らと顔を合わせることはありませんでした。
昨日あまり寝れなかったので、昼寝しようとしていた13:30頃、物凄い土砂降りになりました。早く出てきてよかったと思いました。15:00には一旦止みましたが、18:00にまた雷雨となりました。土砂降りが2回くる昨日のパターンに似ています。結局、今日も靴は完全には乾かず、ものすごく臭くなっています。

明日はいよいよ営業小屋のテン場に泊まります。有名な農鳥小屋の親父さんはどんな人なんでしょうか。ちょっぴり緊張します。

■9日目 農鳥岳はひとでいっぱい 

熊の平では、寒かったけれどぐっすりよく眠れました。3:40起床、ゆっくり準備して5:30に出発しました。この日は農鳥小屋にテントを張って、農鳥岳を空身でピストンするだけなので、余裕たっぷりの行程です。
三国平までゆっくり登るとホシガラスがすぐそばにいて、おはようと挨拶しました。無反応なのでホシガラスの鳴き真似をしたら飛び去ってしまいました。三国平はとても気持ちがいいところでした。

三国平

仙丈ヶ岳がよく見えます

塩見岳、だいぶ遠くになりました



ゆっくりトラバース道を行くと、西農鳥岳でしょうか、人がいるのが小さく見えました。途中、美味しい沢水がありました。農鳥小屋の水場は遠くて大変そうだったので、熊の平でたっぷり3.6ℓ汲んできていたのですが、ここでもよかったなあと思いました。
やがて白峰三山の稜線が近づいてくると、登山者のシルエットが見えました。もうこの先は人が多いんだろうなと思うと、ちょっと残念な気がしました。
稜線に出ると、一気に雰囲気が変わりました。山梨側の斜面が暖められているせいか気温がグッと高くなりました。稜線にチラホラ人影も見えます。

農鳥小屋が見える


農鳥小屋に着くと、親父さんは日向で寝ていました。起こすのを躊躇しましたが、どうしようもないので起こして、受付してもらいました。テントは端から張るように、とのことで、一番端に張りました。他にテントはありませんでした。テント設営していると次々に人が通り過ぎて行きました。私もアプローチシューズに履き替えて、濡れた靴を干して農鳥岳へ行きました。空身&アプローチシューズだと羽が映えたように身軽で、1時間かからず農鳥岳についてしまいました。


農鳥岳です。顔痩せたみたい。

あ、顔がやばい!


帰り道、猿の大群がいてびっくりしました。それにしても次から次へと人がやってきます。テン場に戻ると、もう1人テント設営していました。

猿がいた。

帰り道、小屋とテントが見えます

テントずいぶん端っこ?


ゆっくり外でお昼にしていたら、続々とテント泊の人、小屋泊の人が到着してワイワイ賑やかになりました。テン場は私含めて5組でしたが、今までの状況と比べると、私には「大混雑」に感じてしまうのでした。もう、本当に静かな南アルプスは終わってしまったのでした。

水場はやはり結構急坂を下りるようで、行った方はみなさん口々に大変だと言ってました。体を洗いたいと思いましたが、午後から曇ってしまったのと、人が多いので水場には行きませんでした。それに水場の真上に小屋(トイレ)があってあまり飲みたい水ではありません。

この日も15:00過ぎに土砂降りの雷雨となりました。雷鳴の中、私はしばらくこの雨が続けばいいと思っていました。
雷雨のテントの中、横になって目を閉じると浮かんでくるのは、烏帽子岳で見た真夜中の山頂からの光景でした。静かな山の天辺にもう一度行きたい。そのために明日、日の出前に北岳頂上へ行ってしまいたい。今日は余裕の行程だったので、体はとても元気です。今から寝れば睡眠も十分取れます。おそらく、肩の小屋も人でいっぱいでしょう。それならゆっくり下山するプランより、今夜稜線を楽しんで、明日の昼に広河原へ降りてしまった方がいいと考えました。スマホの電池も残りわずかですし。心残りは、北岳周辺のライチョウにおそらく会えないということだけでした。

■10日目 北岳はもっと人がいっぱい

23:00起床、0:00出発、思ったより天気はよくなく、薄く雲がかかっていましたが、乾いた靴で出発できるのは久しぶりで、気持ちよくスタートしました。間ノ岳の頂上は風が強く寒く、すぐに通り過ぎて北岳山荘を目指します。

風が強かった。

月が高くなり、澄んだ輝きを放つようになると、空も澄んできて、烏帽子でみたような空に近くなってきました。山荘に近づくと、たくさんのテントが見えました。明かりがついているものもチラホラ。塩見岳のように、ご来光組がたくさんくるかもしれないと思い、一気に北岳頂上を目指しました。道は、崩れかけた梯子の残骸があったり、鎖やロープが所々ありました。なんだか中途半端な整備だなあと思いつつ、4:00に山頂につきました。日の出まではまだ時間がかなりありますが、すでに空は白んで雲海の中に富士山や八ヶ岳や、近くには仙丈ヶ岳や甲斐駒がそびえ立って見事な景色になっていました。


鳳凰三山

絵に描いたような富士山

光って読めないけど北岳です



止まっていると寒くて、コーヒーを沸かして飲みました。しばらく、ひとり景色を楽しんでいると肩の小屋方面から人が続々とやってきました。どうも、北岳山荘から御来光を観にくる人はいないようです。日の出前に山頂に人が多くなってしまったので、肩の小屋方面の小峰に移動しました。そちらにも2組ほど人がいました。彼らとお喋りしつつ日の出を待ちました。私が農鳥小屋から来たと言ったらとても驚いていました。日が登ったタイミングで降りました。
まだ続々と人がやってきます。肩の小屋のテン場にはたくさんテントが張ってありました。さっき、小峰で聞いた話だとこれでもだいぶ空いているのだそうです。やっぱり、肩の小屋に泊まらないことにしてよかったと思いました。

日の出

すごい雲

甲斐駒ヶ岳、肩の小屋が見える

もう降りましょう

北岳山頂に人がいっぱいいる


肩の小屋を過ぎました。ここから先は、20年前、まだ学生だった時に来たことがあります。当時、山岳風土研究会という文化系の山サークルに入っていて、その仲間と登ってきたのでした。その時は天気が悪く、肩の小屋で引き返しました。夏休み中で、8月だったはずですが、とても寒かったこと、紙コップの少ない量のお汁粉が400円で高いと思ったことを覚えています。それ以来、10数年前に甲斐駒ヶ岳を北沢峠から日帰りで登ったくらいで、南アルプスのメインである山には登っていませんでした。

さて、小太郎尾根の分岐はもうすぐそこです。分岐を少し降ったところに荷物デポし、アプローチシューズに履き替えて出かけました。なかなか楽しい尾根でした。最初、ハイマツは濡れていなかったのに、高度が下がってくるとハイマツ・シャクナゲの藪でやはり靴がびっしょり濡れてしまいました。小太郎山には1時間くらいで到着しました。すこし休憩して戻ります。
すると、前方に人の気配。誰も来ないかと思っていたのでびっくりしました。少し話をして、分岐に戻りました。8:00でしたが、すでに日が高く、暑くなっていました。

小太郎山の山頂。バックは北岳。

北岳

富士山も見えます

甲斐駒の天辺と奥に八ヶ岳

遠くは、金峰山とかかな?

仙丈?忘れました。


そこからは1300mほど、ずうっと下りです。途中、バットレスを見上げました。バットレスも混んでいるんだろうな、と思いました。下りの途中でも、次々に人がやってきました。広河原のバス停まで、静かな時間はあまりありませんでした。広河原に降りても肩の小屋の風景以外、20年前のことは何ひとつ思い出せませんでした。

11:00のバスには間に合わず、12:00のバスになりました。バスの走る林道のことは少し覚えていました。あの時はギュウギュウ詰で座席に座れず、通路にしゃがんでいたら酔っ払ってものすごく気持ち悪くなってしまったのです。今回は余裕で座れました。
今朝まで3000m以上の場所にいたのに、あっと言う間に見慣れた甲府の街に来てしまいました。金峰山や茅ヶ岳やよく見慣れた山々の風景でした。10日間の山の日々はこれで本当に終わってしまったのでした。

■終わりに

10日間も歩いたら、足豆が潰れたり、体調崩したり、最後の方は疲れて嫌になったり、いろいろ大変なことがあるかな、と思っていましたが、実際歩いてみると疲労と空腹のピークは4、5日目くらいで、そのあとは意外にも元気でした。小河内岳のあたりでゆっくりしたのがよかったのだと思います。足指も長時間歩くと痛くなるものの、豆や靴ズレもできずに済みました。あんな濡れた臭い靴で歩いていたのに、足の皮は頑張ってくれました。休憩のたびに靴を脱いだり、寝る前にオロナインでマッサージしておいたのがよかったのかもしれません。

日焼け止め、オロナイン、ムヒ


今回、特に幸運だったのは、天気のいいときに歩けたことでした。夏の南アルプスは、午後必ずと言っていいほど雷雨になる、と信じて、早めの行動を心がけたおかげでもあります。天気予報はあまり当てにならず、携帯の電池も少なくなってしまったため、後半は全く予報は気にせず、空模様だけを頼りに行動を決めていました。

今後の課題もあります。
頭が脂でベットリかゆくなる問題。クシぐらい持っていけばよかったです。
そして足が臭くなる問題。靴下の替えはもう少し持っていった方が良さそうです。あと、消臭できる何かも。足は拭いたり、沢で洗ったりしていましたが、靴下自体、きちんと洗剤で洗うわけではないので、どうにもダメになってしまうようです。

南アルプスの南部は特に気に入りました。沢とか、積雪期とか、夏の縦走とはまた違う形で入ってみたいと思います。そして、真っ白な冬のライチョウにも会いたいものです。




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