残雪期の白馬岳〜白い雷鳥に会いに行く〜(前編)

■白い雷鳥プロジェクト

真っ白な雷鳥に会いたい。そう思ったのは昨年南アルプスを縦走して雷鳥親子に出会ったことがきっかけでした。
白い雷鳥に会うためには、積雪期のアルプスに入らなくてはなりません。これまで、無雪期のクライミングがメインだったので、雪山登山を初歩からやらなくては、と思いました。
「白い雷鳥プロジェクト」と名付けて計画を立てることにしました。冬の雷鳥はどこにいるんだろう・・・厳冬期の雷鳥は夏よりも標高を下げて、シラビソの生えている雪崩の起きにくい沢に集団で生活しているらしいです。

白馬岳 主稜がよく見える



ともかくも、まずは雪山登山の準備をはじめました。10月くらいからバタバタしていて、体力トレーニングもままならないまま12月になってしまいました。
8年前に山岳会入会して揃えた雪山装備は古くなってきたかなと思い、色々購入しました。
まず、登山靴、ヤッケ、ベースレイヤー、ワカン(持ってなかった!)。
そして、山にできるだけ入りました。

 12月末 山梨百名山の蛭ヶ岳日帰り(雪無し)
 1月頭 櫛形山を南アルプス市役所から歩いて一泊(寒かった)
  *ここで、新しいダウンジャケットとインナー手袋、熱反射素材入りのエアーマット購入
 1月半ば 乾徳山〜黒金山一泊(全荷で周回)
 2月初旬 鳳凰三山で3泊(寒かった!)
 2月半ば 安達太良山と鎌倉岳 それぞれ日帰り
  *ここで、アルパイングローブ、ソーラーランタンを購入
 3月初旬 仙丈ヶ岳2泊(もう寒くなかった)
  *ここで、新しいスパッツを購入
 3月半ば 笹山ダイレクト尾根(暑いくらいだった)
  *ここで、フェレットの帽子とネックウォーマー自作

合間に岩登り。雪山との両立は体力的になかなか難しい。雪山に入った後、私はなぜか指先がものすごく疲れてしまうのです。グローブ嵌めたまま作業するせいか、ストック握る手に力入りすぎなのでしょうか。

厳冬期の北アルプスは、私には非常に難しいので、まず南アルプスを目指しました。3月下旬以降、様子を見て北アルプスの計画を立てようと思いました。

鳳凰三山では、2013年頃、白い雷鳥が目撃されています。2020年の夏にも見かけた人がいたようです。出会える確率は非常に低いと思っていた通り、会えませんでした。仙丈ヶ岳はたくさん生息しているので少し期待していましたが、稜線に雷鳥のフンらしきものを見つけましたが、会えませんでした。

鳳凰三山が終わって、北アルプスのどこに入るか考え始めました。
アルペンルート開通後の室堂は確実でしょうが、人が多いのと時期的にもう雷鳥の羽毛が生え変わって真っ白ではなさそうです。乗鞍岳は入りやすそうですが、登山としてイマイチ魅力が感じられない。色々調べていると、白馬大池から白馬岳に向かう途中に「雷鳥坂」があるではないですか。コースの難易度的にも無理がない。あとは、交通機関をどうするかが問題でした。
いつもクライミングに一緒に行っているパートナーに「白いライチョウ!ライチョウ、カワイイ!ライチョウ、ライチョウ!」と連呼して、一緒に行くことになりました。安達太良と仙丈も一緒に行きました。






■白馬に向かう
栂池高原スキー場からゴンドラ使用して入山し、大池山荘周辺にテントを張って白馬岳往復を3日間で行く計画です。
当初は4/7木〜4/9土の3日のつもりで、4/6水曜の夜に横浜を出発し、途中PAで車中泊しました。
しかし、木曜夜は雨予報。翌日の金曜は風が強い予報でした。朝、栂池高原スキー場へ向かう途中も、北アルプスの稜線はすっぽり雲の中でした。



駐車場まで行ったものの、ゴンドラリフトの往復券の有効期間が3日間であることを確認して、入山日を金曜にずらすことを決めました。1日ゆっくりすることにし、福寿草の群生地を見に行きました。今年は雪解けが遅くて、まだ少ししか咲いていないとのことでした。

福寿草

フキノトウもたくさんあった

その後、小谷村の道の駅で温泉に入りました。平日のせいか人が少なくて快適でした。

ご飯食べると温泉半額になりました

標語がいい!
富より健康!!


ものすごく眠くて、17時にはスキー場の第2駐車場で寝てしまいました。12時間以上寝てしまいました。夜は予報通り雨がザーザー降ったようで、起きたら駐車場が水浸しでした。

駐車場


■入山
4/8金曜日、張り切って七時半にゴンドラ乗り場へいったら、風が強いため営業中止中といわれました。営業開始時間によっては、白馬大池までいけないかも、と不安になっていると、8:15には乗車券販売開始されてほっとひと安心しました。

ゴンドラの車窓から


ゴンドラ降りて9:00に出発しました。この日はロープウェーが休みだったので、ロープウェーの分、林道を一時間半くらい歩きました。山スキーのひとたちがけっこう入っていました。

稜線にかかる雲

林道歩き

天狗原に向かう斜面



白馬乗鞍岳の斜面。シュプールが見える。

祠の前でひと休み。


12時頃、天狗原につきました。目の前に真っ白な急斜面を従えた白馬乗鞍岳があり、スキーの人たちが楽しそうにすべっていました。過去に雪崩事故が度々起きている斜面ですが、この日は大丈夫そうでした。


■雷鳥に出会う
白馬乗鞍岳への急斜面を登りました。白馬乗鞍の山頂付近では、3/30に5羽の雷鳥の目撃情報があったので、とても期待していました。石碑がある三角点のところで、先に登った相方が休憩していました。私は雷鳥をさがしにいく、と言った途端、なんと目の前をオスの雷鳥がふいと横切ったのでした。呆気なく白い雷鳥に出会えてしまいました。雷鳥を驚かせないよう、あまり騒がず、メスが雛を呼ぶときの鳴き声を真似しながら撮影しました。若いオスのようで、小柄で足環はしていませんでした。初めて冬を越したのかもしれません。

念願の白い雷鳥


■白馬大池は異国のよう
乗鞍岳を下ると、白馬大池です。

下りの途中から見た船越の頭

白馬大池から見た船越の頭

白馬大池を歩く


埋もれて煙突だけになった大池山荘のすぐ横にテント張りました。

ブロック積まずに掘りました


なんだかアメリカみたいな風景です!

陽が沈むまでたっぷり時間がありました。ゆっくりご飯食べて、コーヒー飲んで、景色の撮影をしたりしました。

設営時は、ほぼ無風で快適だったのに、夜中は風が強くなり、風雪がテントを打ち付ける音がすごくてあまり寝れませんでした。

■夜明け
4/9土曜日。 3時起きしてゆっくり準備し、5時に出発しました。
雪原を風が吹いて、舞い上がった雪が波のように流れて綺麗でした。夜から引き続き風が強そうです。

早朝の白馬大池

雷鳥坂に向かう

雷鳥坂の途中で日の出を迎えました。山々が美しく染まりました。ただ、風が強い。風に乗って飛んできた氷の粒が顔に当たって痛く、日の出そうそうにサングラスを装着しました。ゴーグルを持ってこなかったことを後悔しました。

日の出

ピンク色の山

■爆風にさらされる
雷鳥坂を登って船越の頭の辺りに来ると風はさらに強くなりました。この後風は弱くなるのか、しばらく強いままなのか。風が強くて休憩も満足にできません。携帯の電波が入るところで山テン予報を確認しました。山頂の風速12、3メートルの状態はしばらく続く予報でした。
風が弱まったタイミングで携帯チェック


これ以上強くならないのであれば大丈夫かな、と風にビビリつつすすんで、小蓮華岳の前まで来ました。風はますます強くなっています。時折、耐風姿勢を取りながら、ゆっくり進みます。白い雷鳥に会えたし、白馬岳は登れなくてもいいかな、と弱気になっていました。

雪煙舞う稜線


舞い上がる雪煙がすごい光景に足がすくみましたが、とりあえず小蓮華は登ってみよう。そう決めて、進みました。



行きま〜す!



手前の小ピークのところで爆風になってしまい、腹ばいの耐風姿勢でやり過ごそうとしました。しかし、10分くらい待っても風は弱くならず、身体が寒くなってきました。
行くか、戻るか?逡巡したものの、結局戻るほうが難しく、ホフク前進で一歩ずつ慎重にぬけました。小蓮華岳の先で風を避けられる場所があるっぽいという、相方のおぼろげな記憶を当てにしてすすんだ結果、小蓮華岳を過ぎたら風が弱まって助かりました。あのままだったら低体温症になってたかもしれないです!

立って歩ける喜び!

風が弱まったとはいえ、風はそこそこ強い状態で、落ち着いて休憩できる場所はありませんでした。とりあえず、三国平を目指します。二重山陵になっていて、ビバーク適地らしいです。途中、イワヒバリが飛んでいました。こんなに風が強いのに逞しいです。

白馬の勇姿が見えてきた

三国平も風は強く、窪地も思ったほどなくて休憩しませんでした。ここでは昔、GWに悲惨な遭難事件が起こった場所です。風が強かったら、大池山荘から白馬山荘までの間、ビバークできる場所なんてないんじゃないかと思いました。

三国平を過ぎて白馬への急登が迫る


■登頂
白馬岳への登りは、風が直接当たらない気がする、と相方が行った通り風に吹かれずに登れました。山頂に向かう途中で唯一、暑いと感じたところでした。
私が後から、間隔を十分あけて登りました。ふと上を見ると、雪の中で蹲っている姿が見えます。出発前から右足の感覚がおかしいと言っていたので、もしかして何かあったのかと心配になりました。近くまで行ってみると、ニヤニヤしながらカメラをこっちに向けてしゃがんでいたのでした。

ゴロンゴロンしたらどこまで転がるかな?

この先、もう一つ急登がありました。ダブルアックスが欲しいなあと思いましたが、ないので仕方がありません。下りが心配です。

最後の急登

フー

あとはもう、ゆる〜い斜面を歩いて山頂です。風はまた吹いてきたものの、小蓮華付近に比べたら大したことがありません。

もうほとんど平らです

美しい!

山頂ついたよ

日焼け止め塗れなかった



山頂で記念撮影して、少し行動食を食べただけでゆっくりしませんでした。じっとしていると風にさらされて寒かったです。日が昇ってから日焼け止めを塗ろうと思っていたのに、風が強いせいでそれどころではありませんでした。すっかり塗るのを忘れていて、顔が真っ赤です。

剣岳よく見えました



■テン場へ戻る
最後の急登のところを下るのが心配でしたが、登ったところではなく夏道に沿って下りたら、さほど難しくなくてほっとしました。その先の急坂を降りたら、この日初めて風が止んだので大休憩しました。座って雪面を眺めていると白銀色のハトのような6羽が隊列を組んで旋回して山陰に入るのが見えました。こんな雪山にハトはいないと思うので、雷鳥じゃないかとおもいました。雷鳥であってほしい。でも尾羽の形が違ったような・・・そのすぐ後、向かいの稜線からも一羽、白い鳥が飛び立つのが見えました。一瞬の出来事だったので、これは舞い上がった雪を見間違ったのかもしれません。

小蓮華岳のあたりに人影が見えました。山スキーの人だろうと思いました。近づくと、他にもたくさんのスキーヤーがやってきました。もう、風はほとんどなくなって、ホフク前進したところも普通に立って歩けました。人がワイワイしてて、朝とは雰囲気か大違いでした。まるでゲレンデのようです。
大池山荘付近も村のようになってました。
土日は人がたくさん入るようです。一足先に入山することで、人のいない稜線と爆風をたのしめて良かったと思いました。

いつの間にかテント村!


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